◯
:
・
「みーすーずー」
花岡水鈴は怒っていた。
あろうことか、桜ちゃんの手を強引に離して彼の少し前を歩くほどだ。
「ねーごめんって、水鈴」
「……」
私が怒っているわけは、彼がついた嘘に、とてつもなくムカついたからである。
私のことが好き、なんて。
そういうタチの悪い嘘は大嫌いだ。
「………」
黙り込みながら、私の後ろをついてくる桜ちゃん。
「………めんどくさ」
ぽつりと言った桜ちゃんの一言に、私は慌てて振り返った。
そうだ、そうだった。
無気力な彼は、自分にとって面倒だと感じたことから遠ざかる習性がある。
私が怒った時は、いつも遠くから解決するのを待っている。
あ、でも結局いつも渋々私を落ち着かせにくるんだけど。
まあとにかく、彼は面倒ごとが嫌いなのだ。



