「みーすーずー」




花岡水鈴は怒っていた。


あろうことか、桜ちゃんの手を強引に離して彼の少し前を歩くほどだ。




「ねーごめんって、水鈴」


「……」




私が怒っているわけは、彼がついた嘘に、とてつもなくムカついたからである。


私のことが好き、なんて。


そういうタチの悪い嘘は大嫌いだ。



「………」



黙り込みながら、私の後ろをついてくる桜ちゃん。




「………めんどくさ」




ぽつりと言った桜ちゃんの一言に、私は慌てて振り返った。


そうだ、そうだった。


無気力な彼は、自分にとって面倒だと感じたことから遠ざかる習性がある。


私が怒った時は、いつも遠くから解決するのを待っている。


あ、でも結局いつも渋々私を落ち着かせにくるんだけど。


まあとにかく、彼は面倒ごとが嫌いなのだ。