当の桜ちゃんはキョトンとして、嘘ついたことを忘れているみたい。


全くもう、ここでいつもの雰囲気出すってどういうことなの。


怒る気なくしちゃったよ。




「俺がついたタチ悪い嘘?」


「そう」


「……どんなんだっけ」


「〝水鈴のこと好き。嘘だけど〟」



呟けば「まじか」という桜ちゃんの声、そしてそれに続く、くすくす笑い。




「なんで笑ってんのーっ」


「盗みが成功して、いい気分だから」


「……は?」


「俺、確信犯な泥棒なんだ」




状況把握で手間取りフリーズする私にニヤリと笑った桜ちゃんは、私の唇に熱を落とした。



それでも動かない私に微笑んで、桜ちゃんはスクバを手にして歩き出した。



ガラガラ、と音を立てて保健室の戸が閉まって、桜ちゃんが片手で鍵を閉める。



やっとこさ全ての意味がわかった私は、桜ちゃんの背中に顔を押し付けた。


鍵を職員室に届けて、学校を出ると空は紺色で、他の生徒は殆どいなかった。




「……桜ちゃん」



「うん」




2人きりの帰り道、静かな夜に紛れながら小さな声で桜ちゃんに聞く。




「あのね、私たち噂によると付き合ってるんだって」