「……桜ちゃん、手」


「ん?」


「手っ!」



手を繋いでいるのを見られることが恥ずかしくて、桜ちゃんにそう主張する。



「水鈴。今日も引っ張って」



桜ちゃんは、へらりと笑っていつも通りに今日も私の主張を跳ね返した。


彼からのお願いに弱い私は、今日もまた渋々といった風に頷いて、彼の手を引いて歩き出す。




彼は、いわゆる〝無気力〟というカテゴリーの人間で家に帰る気力さえもないのだ。


だから、帰るために桜ちゃんを迎えに来て手を引っ張って、毎日桜ちゃんと手を繋いで帰っているというわけだ。



それを見ている人に「桜ちゃんにとっての水鈴って絶対に特別だよね」とか「愛されてるね」だとか言われるけれど、特にそんなことはないと思う。


だって、桜ちゃんにとっての私は〝彼女〟よりも〝お世話係〟という言葉がぴったりだと思うから。