「ねえ、桜ちゃんー……」



机につっぷしている桜ちゃんの体をゆらゆら揺らす。


大声で彼を呼ばないのは、彼がヘッドフォンをしているからだ。



「ん……? あ、みすずだ」



ゆっくりと頭を上げヘッドフォンを外した桜ちゃんは、ぱっちりした二重の目をこすりながら、わたしの名前を呼んだ。



「もう桜ちゃん…帰ろうよ……」


「えー……」



寝ぼけている桜ちゃんのカバンを肩にかけ、彼の手首を引っ張る。


すると、友達のこよりちゃんが控えめにくすくすと笑った。



「水鈴(みすず)、相変わらず桜庭くんと仲良しだね」


「そうかな、普通だよ?」


「なわけないでしょう? 付き合っているんだから。……まあ噂だけど」



そう、私と桜ちゃんはお付き合いをしている、ということになっている、らしい。


ちなみに、本当は付き合ってなどいない。


普通にちょっと関わりが長くて仲のいい友達だ。