日本でやる気のない目をして、やりたくもない仕事に就くより、音楽に携わる仕事の方がずっといい。
でも、それがプロのピアニストの夢へ繋がる保証はどこにもない。
「奏、どうするの?」と聞いたら、繋いでいる手に力が込められた。
「行きたい。最後のチャンスだと思って、足掻いてみたい。
さっきピアノを弾いている最中に、夢が叶わなくても追いかけろって……心の中で誰かが叫んだ気がしたんだ。もしかして、それは綾?」
白い世界で訴えた私の言葉は、奏の心に響いてくれたみたい。
扉から出ていったピアノへの情熱は、奏の中に戻り、苦しみの中でも希望の光を見つけたんだ。
私の言葉が今、奏を前に押し進めている……それが嬉しくて、笑顔で頷いた。
「声が届いて、よかった……」
ピアノの椅子から立ち上がった奏は、日野村先生とロズベルグに頭を下げ、感謝を伝えた。
それから連絡先を交換し、多忙なロズベルグは先に去っていった。
私と奏はステージを下り、帰るところ。
途中まで見送ってくれる日野村先生は、隣で奏を励ました。
「著名なピアニストやオケのそばで仕事ができるということは、奏の音楽の幅を広げてくれるだろう。向こうで君の道が開ける予感がするんだ。
なぁに、左手一本で演奏活動しているピアニストもいるくらいだし、なんとかなるだろ」


