奏 〜Fantasia for piano〜


くすみが取れ、透き通るような茶色の瞳に私が映ると、宝石のような涙をポロポロとこぼし、私の頬を濡らした。


「綾……俺は……」


「うん、分かってるよ。奏の心を見せてもらったから、全部分かってる。

怖かったんだよね。辛い現実から逃げたかったんだよね。でもそれじゃ、奏はダメになる。

もう分かるでしょ? ここから出て、もう一度足掻いてみて。夢を諦めないで」


奏がゆっくりと頷いた。

私の言葉を噛みしめるように「夢を諦めない」と口にした。


よかった……これからの奏は前に向かって進んでくれることだろう。

それを確信すると、奏の体が透き通り、薄れて消えていった。


やっと扉を開けて出て行ったんだね。

ホッとした直後に、ふと気づく。

奏が出て行って、私が残っているということは……。


地震のように世界が大きく揺れ出し、この部屋の崩壊が始まったのだと知る。

今すぐ脱出しなければと立ち上がって、走り出した。


遠くに光に包まれる白い扉が見えている。

きっとあそこが出口だ。

この崩壊に巻き込まれたら、元の世界に戻れなくなりそうな気がして焦っていた。