奏 〜Fantasia for piano〜


痛い‼︎ でも……この痛みはきっと、奏の心の痛みなんだ。

いや、これよりもっとずっと、奏は傷つき痛みに苦しんでいる。

非力な私は奏になにもしてあげられなかった。

それならば、せめて痛みの一部でも代わりに受けてあげたいと思う。


首筋に牙を立てる奏の背に、腕を回して抱きしめた。


「もっと傷つけてもいいよ。私に痛みを分けて。

奏の痛みが軽くなったら、ここから出て行こう。
苦しみを抱えたまま、夢を追いかけよう。

逃げないで、乗り越えて見せてよ。奏ならそれができるって、私は信じてる」


痛みに耐えながら、静かな声で語りかけた。

すると唸り声がやみ、牙と爪をしまって、奏が私を見下ろす。

白目さえ黒に染められた瞳が、もっと言葉を聞かせてよというように、私をじっと見つめている。


「奏、一緒にここを出よう」


そう言って微笑みかけると、真っ黒な体にひびが入った。

大きなひびは細かなひびへと分岐して、全身に行き渡ると、黒い破片となり粉々に砕け散る。

その下に現れたのは、白い肌、茶色い瞳の裸の奏。