ピアノの椅子から転げ落ちた奏は、右手を胸に抱え、痛みに顔を歪めながら叫んだ。
「ピアノが弾きたい……弾かせてくれよ、お願いだから‼︎」
ピアノの椅子に左手をかけ、力を振り絞るように奏はよじ登った。
痛みに呻きながらも、鍵盤に両手を乗せ、続きを弾き始める。
しかし、浸食は止まらない。
すぐに顔も左手も、全身が黒に飲み込まれ、たまらず音が途絶えると、ピアノがスッと姿を消した。
黒い人形のようになった奏は、そのまま床にうつ伏せに倒れ、死んだように動かなくなる。
目の前の光景に圧倒され、それまでなにもできずに呼吸さえ忘れていた私は、ハッとして足元に倒れている奏を心配した。
ここは奏の心の世界。
異物の私は幽霊のような存在で、彼に触れることも声を届けることもできない。
それを分かっていても、その背に手を伸ばし、泣きながら訴えた。
「奏、もう一度夢を追ってみようよ!
叶わなくても、プロになれなくても、それでも夢を追いかけてよ!
ピアノから離れた奏は死んでるみたいだよ。本当はこんなにもピアノを求めているのに。
こんなになってしまうくらいなら、夢を追いかけてよ、奏っ‼︎」


