ドアノブに触れた途端、扉の方から開いてくれて、私の体は別の部屋の中に引きずり込まれる。
なにを見せられても驚かないつもりだったけど、目を瞬かせてから戸惑った。
なにこれ……?
黒い空気がとぐろを巻くような、景色のない空間が広がっている。
形あるものはひとつも見当たらないし、奏の姿もない。
質量がありそうな重たい空気を掻き分けるようにして、私は奏を捜し歩いた。
すると突然前方に、スポットライトを当てられたような、ぽっかりと明るい空間が現れる。
そこまで行き、光の中に足を踏み入れたら、急に色のある景色が広がり、奏の姿も見つけた。
年齢は、今と同じに見える奏。
スーツ姿で金色のトロフィーを腕に抱き、大勢の外国人に囲まれて拍手を浴びている。
フラッシュがたかれて、マイクを向けられ……。
これはコンクールの授賞式後のインタビューだろうか?
奏の過去にこんな出来事はないはず。
ということは、ここは奏の願望の世界なのか……。
奏の夢への入口。
プロのピアニストになるためにコンクールで優勝するというこのシーンは、数年前に実現可能だったはずなのに……。


