ここが奏の夢の原点。
プロのピアニストになる夢を作ったのは、私とのこの会話が切っ掛けだった……。
懐かしさや切なさが込み上げて、目の前の幼いふたりに心が持っていかれそうになる。
ハッとして頭をブンブンと横に振り、気持ちを立て直した。
想い出に浸るためにここに来たんじゃない。
今、私が見なければならないのは、こんな温かい光景じゃないはず。
部屋の中に歩を進め、周囲を見回した。
入口横の左側の壁に、前回開けた扉がある。
この扉は、奏が怪我を負ったシーンに繋がる扉だ。
見るべきはこの扉ではなくて……。
ぐるりと一周、六角形の部屋の壁を見ても、他に扉は見当たらない。
おかしいな……私がまだ開けていない扉があるはずなのに……。
そう信じる私は部屋の隅々に目を配り、やっと見つけた。
グランドピアノの真下の床に、白いチョークで絵を描いたような扉が出現していた。
この世界での私は幽霊だ。
幼いふたりの体もピアノもすり抜けて床にしゃがむと、線で描かれた扉のドアノブに手を伸ばした。


