三人は英語で会話している。
日野村先生が奏を紹介している英文は、なんとなく聞き取れるけど、後はさっぱり分からない。
英語の成績は悪くないのに、悲しいほどに学校の授業は役に立ってくれなかった。
でも、奏の声のトーンや、奏の右手を掴む日野村先生の表情、ピアノを指差すロズベルグの身振りなどから、話の内容が推測できた。
恐らく日野村先生は、奏の身に起きたことを説明したのだろう。
才能ある若いピアニストが、プロの道を断たれてしまったということを。
それを頷いて聞いていたロズベルグは、ピアノを指差し、今ここで弾くようにと、奏に言ったように見える。
怪我のことを承知の上で、なにかを確かめるために、弾いてごらんと……。
奏のこめかみから、冷や汗が流れていた。
絶句した後は、早口の英語でなにかを言い返している。
『あなたに聴いてもらえるような演奏など、到底できない』とでも言ったのか、日野村先生が説得を試みていた。
しかし、「ノー」と断り続ける奏。
ロズベルグの表情から奏に対する関心が、徐々に薄れて消えそうなのが分かり、思わず私は後ろから、奏に向かって声を荒げた。
「弾いてよ、奏‼︎」


