奏 〜Fantasia for piano〜


ロズベルグの三曲目、そしてアンコールに応えての一曲が終わると、音楽祭もこれでおしまい。

西の空はもう早赤みを帯びて、近づく冬を感じさせる。

この野外ステージも明日から冬季休業期間に入るそうで、雪解けまでここは、自然の音のみに支配されることになる。


観客たちは立ち上がり、同じ方向へぞろぞろと引き上げていた。

みんな口々にロズベルグを褒め称え、満足げな笑みを浮かべている。


私と奏はまだ芝生に座ったまま。

繋がれた手もそのままで、移動する集団の隙間に見える遠いステージを、奏はぼんやりと眺めていた。


奏は今、なにを考えているのだろう……。

かつての恩師の演奏に触発されて、もう一度ピアノを弾きたいと思っているのなら嬉しいけれど、たぶん違うよね……。


人がまばらになってきた。

私達も帰ろうかと声をかけようとしたら、「おーい」とステージの方から走ってくる人がいた。

日野村先生だ。

立ち上がった私達の前で足を止めた先生は、乱れた呼吸を整えて、「よかった、まだいてくれた」と奏に言う。


「君をコンラートに紹介したい」