「綾は、想い出を美化しすぎてるよ」
「そんなことないよ!」
「しっ。静かに。三曲目が始まる」
次の曲は二曲目と違って、華やかで軽快な曲。
その曲名や作曲家を気にするよりも、奏に言い足りなくて、やきもきしてしまう。
あのときの奏の演奏の素晴らしさを、涙が出るほどの感動を、どう言えば本人に伝えられるのだろう……。
奏の視線はステージに向けられている。
ここからだと演奏者は親指ほどの大きさで、奏は目幅を狭めて日野村先生を見ていた。
伝えたい想いを抱えている私は、視線が合わないことが不満で頬を膨らませた。
すると奏の右手が動いて、私の左手を繋ぐ。
そんなことをされたら、大きな手の感触にドキドキして、不満を忘れてしまいそう。
ずるい奏は私の耳に口を付け、「綾、ありがとう……」と囁いた。


