奏 〜Fantasia for piano〜


拍手が鳴り、弦楽四重奏の四人が舞台袖に引き上げると、あれ?と疑問が湧く。

そういえば、出番を控えていると言っていた日野村先生がまだ出てきていない。

ということは……。


次の演奏者がステージ上に現れた。

コンラート・ロズベルグと、日野村先生だ。

先程会ったときは、その辺を歩いてそうな普通の中年男性に見えたのに、黒燕尾に蝶ネクタイのフォーマルスーツで登場すると、堂々とした威厳のようなものを感じた。


「ロズベルグのバイオリンソロの伴奏者って、日野村先生なんだね」


驚きの中で奏に話しかけると、「当然だよ」という言葉が返ってきた。


「綾も聴けば分かる。
先生のピアノの素晴らしさが」


拍手が湧き、静まると、ロズベルグの一曲目が始まった。

パガニーニ作曲の『二十四の奇想曲、第二十四曲』というらしい。

この曲に伴奏はなく、日野村先生はピアノの椅子に座っているだけで、出番はまだみたい。


「パガニーニって、聞いたことあるけど、どんな作曲家だったかな……」

小声で独り言を呟くと、奏が私の耳元で囁くように教えてくれた。


「イタリアのバイオリニストで作曲家。演奏が困難なほどの超絶技巧の楽曲を作り、自ら演奏したせいで悪魔と呼ばれた。
亡くなったときには教会に埋葬してもらえなかったそうだよ」


「なんか、怖い話だね……」


「それくらい偉大なバイオリニストってこと。
綾はリストの『十二の練習曲』を弾いたことある? かの有名なリストも、パガニーニの影響を受けて、このバイオリン曲のピアノ編曲もしてるんだよ」