奏の頭をそっと撫でながら、考えの中に沈む。
再会してから数ヶ月、精一杯あがいたけど、私には奏を変えられなかった。
非力な自分を残念に思う。
奏のために、私にできることはもうなにもないと思い知らされたのに、まだなにかできるんじゃないかと、悩んでしまう。
そのとき、「君、香月奏くんかい?」と声をかけられた。
いつの間にか横に、恰幅のいい中年男性がひとり立っていて、白髪交じりの顎髭を触りながら奏を見下ろしている。
目を開けた茶色の瞳に、その人が映ると、奏は驚きを顔に浮かべて跳ね起きた。
「日野村先生……」
「おお、やっぱり奏か! 六年振りか?
いや〜、大きくなったな〜」
日野村先生と呼ばれたその人は、立ち上がった奏を力任せにハグして、背中をバシバシと叩く。
テンション高めの日野村先生に対し、奏は戸惑っているような、困ったような顔して、目を泳がせている。
その視線が座ったままの私と合わさると、「小学生のときのピアノの先生」と、説明してくれた。
「俺に留学を勧めてくれたのは、日野村先生なんだ。推薦状を書いてくれたり、願書の書き方や試験についても詳しく教えてくれて、随分とお世話になった……」


