奏 〜Fantasia for piano〜


司会者のコールの後、梨奈とステージに出た。

グランドピアノの椅子に浅く座り、胸に下げた鍵を握りしめる。

それを離して鍵盤に指を乗せると、最初の一音を鳴らした。


奏に教わった通り、楽譜に忠実に。
でも、楽しむ心は忘れずに。

梨奈と一緒にこの曲を、楽しんで作り上げるんだ。


主旋律のフルートを、ピアノの私がそっと支える。

ソロの部分だけは、私の音を聴いてよと、思いっきり自己主張して。

楽しい緊張感の中で、六分間があっという間に過ぎていた。

最後の小節を弾き終えると、たくさんの拍手をもらった。


立ち上がり、梨奈と並んでお辞儀する。

ブラボーはさすがにもらえなかったけど、満足する演奏ができたと思う。

昨日のアコールと同じくらいによく弾けたのは、お守りに鍵をもってきたおかげだろうか?

『興味ない』と言った奏に、後で自慢してやろう。
大成功で、すごく楽しかったよって……。


そんなことを考えながら、お辞儀した頭を上げると、客席に奏を見つけて驚いた。

芝生席の端っこの、後ろの後ろ。

客席から外れそうな位置で、木の幹に背を預け、腕組みして立っている。