奏 〜Fantasia for piano〜


ウィリアムテル序曲が終わり、会場が拍手に包まれる。

「綾、そろそろ行こうか」と梨奈に言われ、立ち上がる。

ステージ裏の関係者出入口から建物の中に入り、控室へ。

共同で使う控室は色んな年齢層の女性が二十名ほどいて、ワイワイと賑やかだ。

私達は壁際で荷物を広げ、ステージ衣装に着替えをした。


私の衣装は、二年前のピアノコンクールでも着た水色のAラインのワンピース。

ノースリーブで色味も夏っぽいけど、この音楽祭のためにドレスを新調する余裕はないので、これにした。


梨奈はベージュの膝丈ワンピースに、黒いボレロを羽織っている。

「いとこの結婚式で着た服なんだ」と照れくさそうに笑う梨奈は、いつもより可愛く見えた。


少し控室で待機して、時刻は十二時五分になる。

出番まで後十分。

そろそろ舞台袖に待機しようとドアに向けて歩き出したら、梨奈に待ったをかけられた。


「そのお守りの鍵、握りしめたままで行くの?」

「あ……」


そうだよね。ドレスにポケットはないから、置いていかなくちゃいけないよね……。