「そういうわけだからさ、うまく話せるか全然自信ないけど俺の話を聞いてほしいんだ」
玲二は言いながら、急な呼び出しに応じてやってきてくれた三人の顔をゆっくりと見る。
修は真剣な顔でこくりと頷いた。
中原さんと長洲は「自分が聞いていいのだろうか……」と確かめ合うように顔を見合わせた。
「興味ないかも知れないけど、中原さんと長洲にも聞いて欲しい。三人はこの町で出来た俺の大事な友達だから」
玲二はちょっと笑って、女子ふたりにそう言った。
「興味なくなんかないよ」
「別に友達になった覚えはないけど……まぁ、いっか」
それぞれから、らしい返事が返ってきて、玲二は話をはじめる覚悟を決めた。
どこから、なにを、どう話せばいいのだろうか。
言葉にすれば、ありがちで陳腐な物語に聞こえてしまうのかもしれない。
だけどーー。
◇◇◇
初めて彼女の存在を認識したのは、葉桜の季節だった。
校庭をぐるりと囲むように植えられた桜の木は鮮やかな緑の花を咲かせているようで、これはこれで綺麗なもんだなと、そんな風に思ったことを覚えている。
玲二は中学のときになんとなく始めたサッカーを高校でも続けていて、放課後はほぼ毎日練習で潰していた。特別強豪校でもないけれど、ありがたいことにエスカレーターでの大学進学が約束されていたため心置きなく部活に打ち込むことができる環境だった。
水分補給のための休憩が与えられたときに、なんの気なしにふと視線を向けた先に彼女はいた。
図書室の大きなガラス窓の向こうで、ひとり黙々と本を整理する作業を続けていた。
長い黒髪、ちょっと不健康なほどに白い肌、縁のない眼鏡をかけている。
白いブラウスから伸びる腕は細く、折れそうに華奢だった。
別に目を見張るほどの美少女でもなく、大人しそうなクラスに一人はいそうなタイプの子だった。
ただ、玲二は幼稚園からこのK大付属に通っていて生徒会役員もしている。
校舎の豪華さの割にはそんなに生徒数は多くないこの学校で、同学年の子の顔くらいは把握しているつもりだった。なのに、彼女の顔には見覚えがなかった。
……誰だろう?緑のリボンだから、同じ2年だよな。
ちょっと疑問には思ったけど、特別気に留めたわけでもない。
「集合~」
三年生のキャプテンの呼び声でグラウンドに戻るころには、もう忘れていた。
ただ、不思議なもので人間は一度認識したものには目が留まるようになっているのか。
それからは度々、彼女の姿が視界に入ってくるようになった。
放課後のグラウンドで、全校生徒が集まる体育館で、部室へと向かう長い渡り廊下で。
彼女はいつも一人だった。だけど、いつだって優しい顔をしていた。
玲二は言いながら、急な呼び出しに応じてやってきてくれた三人の顔をゆっくりと見る。
修は真剣な顔でこくりと頷いた。
中原さんと長洲は「自分が聞いていいのだろうか……」と確かめ合うように顔を見合わせた。
「興味ないかも知れないけど、中原さんと長洲にも聞いて欲しい。三人はこの町で出来た俺の大事な友達だから」
玲二はちょっと笑って、女子ふたりにそう言った。
「興味なくなんかないよ」
「別に友達になった覚えはないけど……まぁ、いっか」
それぞれから、らしい返事が返ってきて、玲二は話をはじめる覚悟を決めた。
どこから、なにを、どう話せばいいのだろうか。
言葉にすれば、ありがちで陳腐な物語に聞こえてしまうのかもしれない。
だけどーー。
◇◇◇
初めて彼女の存在を認識したのは、葉桜の季節だった。
校庭をぐるりと囲むように植えられた桜の木は鮮やかな緑の花を咲かせているようで、これはこれで綺麗なもんだなと、そんな風に思ったことを覚えている。
玲二は中学のときになんとなく始めたサッカーを高校でも続けていて、放課後はほぼ毎日練習で潰していた。特別強豪校でもないけれど、ありがたいことにエスカレーターでの大学進学が約束されていたため心置きなく部活に打ち込むことができる環境だった。
水分補給のための休憩が与えられたときに、なんの気なしにふと視線を向けた先に彼女はいた。
図書室の大きなガラス窓の向こうで、ひとり黙々と本を整理する作業を続けていた。
長い黒髪、ちょっと不健康なほどに白い肌、縁のない眼鏡をかけている。
白いブラウスから伸びる腕は細く、折れそうに華奢だった。
別に目を見張るほどの美少女でもなく、大人しそうなクラスに一人はいそうなタイプの子だった。
ただ、玲二は幼稚園からこのK大付属に通っていて生徒会役員もしている。
校舎の豪華さの割にはそんなに生徒数は多くないこの学校で、同学年の子の顔くらいは把握しているつもりだった。なのに、彼女の顔には見覚えがなかった。
……誰だろう?緑のリボンだから、同じ2年だよな。
ちょっと疑問には思ったけど、特別気に留めたわけでもない。
「集合~」
三年生のキャプテンの呼び声でグラウンドに戻るころには、もう忘れていた。
ただ、不思議なもので人間は一度認識したものには目が留まるようになっているのか。
それからは度々、彼女の姿が視界に入ってくるようになった。
放課後のグラウンドで、全校生徒が集まる体育館で、部室へと向かう長い渡り廊下で。
彼女はいつも一人だった。だけど、いつだって優しい顔をしていた。



