みちるが気に病まないようにと、そんなふうに言ってくれる佳子先生の心遣いが嬉しかった。「お母さんと話し合わないとね」なんて正論も佳子先生は一切言わなかった。
「ふぅ。みちるちゃんはしっかり考えてて安心だけど、修はまだ全然決まらないみたいでこっちの方がハラハラしちゃうわ」
佳子先生は苦笑いを浮かべながら言った。修も大学進学だとばかり思っていたみちるは驚いて聞き返す。
「えっ⁉︎ 修、大学行かないの?」
「う〜ん。 大学か専門学校かどっちでもいいなんて言うのよ、あの子。昔から争いごとの苦手な子だったから、受験が嫌なのかしらねぇ」
みちるは自分がそうだからって、勝手に修も東京の大学に進むものだと思い込んでいた。
‥‥そうか。春になったら、バラバラになってしまう可能性もあるんだ。
当たり前の事実に今さら気がついて、みちるは愕然とした。別に今だって毎日顔を合わせているわけじゃない。最近は全然会話が続かないし‥‥だけど、修のいない町で暮らす自分はちっとも想像できなかった。
「この間もね、遅くまで電気が点いてたから勉強してるのかと思ってのぞいたら電気つけっぱなしで寝てるのよ。
それで私が消そうとしたら、明るくないと寝れないなんて子供みたいなこと言ってて‥‥」
「あ、修が電気をつけっぱなしなの多分ずっと前からだと思う」
「えー⁉︎本当に? タダじゃないのに、もったいないわねぇ」
佳子先生はがくっと肩を落とした。
みちるも佳子先生に同感だ。せめて豆電球かなにかにすればいいのに‥‥。
そういえば、みちるも昔は真っ暗な部屋が怖かった。ふいに脳裏に幼い頃の記憶が蘇ってくる。
「やだっ。帰らないで。みちると一緒にここにいてよ」
「う〜ん、けど夕飯には帰るってお母さんと約束しちゃったし。夏美がお腹空いたって泣くしなぁ」
困りきった顔で修が頭を掻く。小学校にあがったばっかりの頃だったろうか。
放課後、修と桃子ちゃんと夏美ちゃんとみちるの家で遊んでいた。修達がそろそろ帰るというのをみちるが泣いて引き留めたのだ。
母親が水商売を始めたのがちょうどこの頃で、みちるは一人で過ごす夜が嫌で嫌でたまらなかった。
「わかった! 俺、夕飯食べたらすぐ部屋に行く。窓開けて、みちるのこと呼ぶから。眠くなるまで話しよう。そしたら一緒にいるのと同じだろ」
言葉通り、修はみちるが眠くなるまでずっと窓辺にいてくれた。時々大きな声でみちるを呼んでくれたから、みちるは怖い思いをすることなく眠りにつけた。
それからしばらくの間も、修はずっと同じようにしてくれていたのだ。
いつの間にかみちるは一人で過ごす夜にすっかり慣れてしまい、修の部屋の方をいちいち確認することもなくなったけど‥‥。
もしかして、ううん、もしかしてなんかじゃない。修はずっとあの約束を守ってくれていたんだ。
あの明るい光は、みちるが寂しくないようにという修の優しさだった。
「ふぅ。みちるちゃんはしっかり考えてて安心だけど、修はまだ全然決まらないみたいでこっちの方がハラハラしちゃうわ」
佳子先生は苦笑いを浮かべながら言った。修も大学進学だとばかり思っていたみちるは驚いて聞き返す。
「えっ⁉︎ 修、大学行かないの?」
「う〜ん。 大学か専門学校かどっちでもいいなんて言うのよ、あの子。昔から争いごとの苦手な子だったから、受験が嫌なのかしらねぇ」
みちるは自分がそうだからって、勝手に修も東京の大学に進むものだと思い込んでいた。
‥‥そうか。春になったら、バラバラになってしまう可能性もあるんだ。
当たり前の事実に今さら気がついて、みちるは愕然とした。別に今だって毎日顔を合わせているわけじゃない。最近は全然会話が続かないし‥‥だけど、修のいない町で暮らす自分はちっとも想像できなかった。
「この間もね、遅くまで電気が点いてたから勉強してるのかと思ってのぞいたら電気つけっぱなしで寝てるのよ。
それで私が消そうとしたら、明るくないと寝れないなんて子供みたいなこと言ってて‥‥」
「あ、修が電気をつけっぱなしなの多分ずっと前からだと思う」
「えー⁉︎本当に? タダじゃないのに、もったいないわねぇ」
佳子先生はがくっと肩を落とした。
みちるも佳子先生に同感だ。せめて豆電球かなにかにすればいいのに‥‥。
そういえば、みちるも昔は真っ暗な部屋が怖かった。ふいに脳裏に幼い頃の記憶が蘇ってくる。
「やだっ。帰らないで。みちると一緒にここにいてよ」
「う〜ん、けど夕飯には帰るってお母さんと約束しちゃったし。夏美がお腹空いたって泣くしなぁ」
困りきった顔で修が頭を掻く。小学校にあがったばっかりの頃だったろうか。
放課後、修と桃子ちゃんと夏美ちゃんとみちるの家で遊んでいた。修達がそろそろ帰るというのをみちるが泣いて引き留めたのだ。
母親が水商売を始めたのがちょうどこの頃で、みちるは一人で過ごす夜が嫌で嫌でたまらなかった。
「わかった! 俺、夕飯食べたらすぐ部屋に行く。窓開けて、みちるのこと呼ぶから。眠くなるまで話しよう。そしたら一緒にいるのと同じだろ」
言葉通り、修はみちるが眠くなるまでずっと窓辺にいてくれた。時々大きな声でみちるを呼んでくれたから、みちるは怖い思いをすることなく眠りにつけた。
それからしばらくの間も、修はずっと同じようにしてくれていたのだ。
いつの間にかみちるは一人で過ごす夜にすっかり慣れてしまい、修の部屋の方をいちいち確認することもなくなったけど‥‥。
もしかして、ううん、もしかしてなんかじゃない。修はずっとあの約束を守ってくれていたんだ。
あの明るい光は、みちるが寂しくないようにという修の優しさだった。



