スワロウテイル

ふいに、ざぁーと強く吹きつける風が砂埃を巻き上げた。それに抗うように修が顔の向きを変えると、一番見たくないものが目に飛び込んできた。


美男美女、おまけにスタイルも良いふたりが並んで歩いているところは、まるで学園ドラマのワンシーンのようだった。

みちるは手振り身振りを交えて楽しそうに玲二に話かけていた。みちるが何か面白いことを言ったのか、五條は端正な顔をくしゃりとゆがめて大笑いをしている。

「・・・あの二人って付き合ってんの?
最近、仲いいよな」

「さぁ」

井上の問いかけに修はぶっきらぼうな返事をする。

「悔しいけど、五條なら仕方ないよなぁ。どこを取っても勝ち目ないもんな〜」

井上は額に手をあてて、空を仰いだ。
みちる、みちるとあんなに騒いでいた井上ですら、五條なら納得するのかーー。

五條がかっこいいから?
性格も頭もいいから?
それとも、五條が東京の人間だから?


冷水を浴びせられたように、頭も身体もすぅと一瞬で冷えていく。それなのに胸だけがジリジリと灼けつくように熱かった。無性に喉が渇いて仕方がない。

これ以上、一秒だってこの場にいたくなかった。

修は勢いよく二人から顔を背けると、井上を置き去りにしてしまうほどの急ぎ足で体育館へと向かった。

自分はいつだって逃げてばかりだ。

だけど、逃げないと。

逃げないと、負の感情がどんどん増幅していって修の心を真っ黒に塗りつぶしてしまいそうだった。


◇◇◇
翌日の土曜日。
部活の練習が午後からなことを理由に、修はいつまでもベッドから起き上がらずに自分の部屋でダラダラとスマホをいじっていた。

壁掛時計の示す時刻は午前11時半。

「‥‥腹減ったな」

朝ごはんも食べずに部屋にこもっていたので、さすがに胃が空っぽだ。
いい加減に着替えて、下に降りるか。
そう思いたったところでコンコンという控えめなノックの音が聞こえた。

扉の向こうの人物は修の返事を待っているようだ。

母親はそもそもノックなんてしない、妹達はノックと同時に扉を開ける。

となると、父親か?

修は考えながら、「なに?」と返事をして扉を開けた。