リビングに入った根岸さんを待ち受けていたのは、
北斗さんたちの驚いたような顔と浮城さんの疑いの目だった。
浮城さんだけは、皆とは明らかに態度が違っていて、
待ってましたとばかりに、
根岸さんへ冷たい言葉を投げかけ詰め寄った。
根岸「お疲れ様」
田所「根岸さん。お疲れ様です」
七星「お疲れさん。
根岸。もしかして、さっきの話し聞いていたのか」
根岸「まぁ。
玄関に入ったらいきなり言い争う声が聞こえたんで、
なんとなくだけど」
浮城「だったら話は早いや。
お前!今まで何処へ行ってたんだ!」
根岸「いきなり藪から棒になんなんだ(笑)
俺がみんなに黙って何処へ行こうと、
例えば夏鈴とふたりきりでラブラブデートをしていようと、
浮城さんにはまったく関係ないことだろ」
浮城「なんだその人をなめまくった言い方は!」
流星「浮城さん!
今は私情を挟んで感情的になっちゃだめだって!」
浮城「いちいちムカつくんだよ。
こいつの言い方や態度が!」
七星「根岸。
実は今まで撮影した水中画像がすべて消えてしまったんだ。
どの編集ディスクを確認してもエラーでダメになってる」
根岸「オリジナルの撮影データもか」
七星「捜したがSDカードが見当たらない」
根岸「消えたSDデータのリカバリーは試してみたか?」
七星「いや、まだだ」
浮城「お前、夜ひとりで編集作業してたんだってな。
真面に写ってる画像データをどこにやった!
まさか、密かに昴然社に持っていったんじゃないだろうな。
あの狸の命令で、神道社長や俺たちを失脚させるつもりで」
根岸「ふん(笑)すごい発想だな。
何をもってそこまでの推理や妄想ができるんだ。バカらしい」
浮城「お前、俺を茶化してるのか!
いい加減にしろよ、この野郎!」
PCバックをソファーに置いて、
何を言われても全く動じない顔で話す根岸さん。
浮城さんは今まで我慢していた感情を一気に噴き出すように、
怒りに任せて凄い剣幕で根岸さんに掴みかかっていった。
彼の胸座を力強く握る浮城さんを田所くんと流星さんが止めに入る。
田所「浮城さん!大人げないですよ!」
流星「根岸も挑発するような言い方やめろっ!」
北斗さんは見るに見かねて浮城さんと根岸さんの間に入り、
根岸さんの目を見て真剣な顔で話しだした。
しかし彼のひとことで浮城さんはもちろん、
流星さんやその場にいた皆が驚きの表情に変わる。
七星「今回のこと。
お前がやったんじゃないってことは僕も知ってる」
浮城「はぁ!?」
流星「兄貴(驚)どういうことだ!?」
村田「七星さん、何か知ってるんですか!?」
七星「すまない。
一昨日の夜、星光ちゃんと話してる内容を階段で聞いていたんだ」
根岸「ふっ(微笑)なんだ、それ。
だったらさっき、あの子が必死で訴えた時、
何故わかってるって同調してやらなかったんだ。
『君は部外者だ。
ここで何が起こってるかわからない人間があれこれ口を出すな』なんて、
あんな惨いことをどうして平気で言えるんだ、あんたは」
七星「それには訳がある。
そうしないといけない理由があるんだ」
根岸「だったら。
先にきちんと彼女にだけは説明してやったらどうなんだ。
あれじゃあ、蛇の生殺しだ」
七星「根岸。
何か知ってることがあったらどんなことでもいい。
教えてほしいんだ。
頼む、僕らに協力してほしい」
根岸さんは始め困ったような顔をしていたけれど、
肩にかけていた大きなバッグを下ろし、
中から大きな茶封筒を取り出した。
そしてその封筒を北斗さんに渡したのだ。
根岸「水中画像のバックアップ。
オリジナル画像分は、初日から今までの撮影分全部ここに入ってる。
望田、細波、恋月、三人の画像のバックアップもとってある」
流星「全部か!?」
浮城「……」
七星「(中身を確認する)どうして、これを…」
根岸「水野さんとカレンさんが溺れた日から、
なんとなくだが嫌な予感がしていたんで、ずっとひとりで作業してた。
日中じゃあ、もしここに悪巧みを企ててる奴が居たら元も子もない。
だから夜、バックアップ作業をやってたんだ」
七星「根岸」
浮城「それは本当だろうな。
カズ、早速確認しようぜ。
流星も手伝え」
流星「あ、ああ」
根岸「駄目だ!」
流星「えっ。何故」
根岸「もしここのPCに細工されてたらどうするんだ!
SDカードをスロットに入れただけでデータが駄目になるかもしれない。
ここに俺のPCがあるからこれを使ってくれ。
二階に七星さんと東さんのフォロー用のデスクトップPCがあるんだよな?」
七星「ああ」
根岸「それで確認するのもいいだろう」
流星「根岸。
お前まさか、そのことで今まで動いていたのか」
根岸「まぁ、そんなところかな。
最終確認は外でしないとどうしても安心できなかったもんで」
七星「そうか。これ、有難く使わせてもらうよ」
根岸「ああ」
村田「浮城さん。根岸さんに謝りましょうよ。
仲間を犯人扱いするなんてやっぱり良くないわ」
田所「そうですよ、浮城さん。ここは男らしく!」
風馬「俺はなんとなく浮城さんの気持ち、わかるからなぁー」
流星「こら。黙ってろ、狂犬」
風馬「ほいほい」
浮城さんはとてもばつの悪い顔をして、
根岸さんの顔色を窺っていたけれど、
大きなため息をついた後、決心がついたのか彼に言葉をかけた。
浮城「はーっ。根岸、疑ってすまなかった。
許してほしい」
根岸「こっちこそ。
夏鈴を横取りしてすみません」
浮城「お、俺は、真面目に謝ってんだぞ!」
七星「ふっ(笑)陽立、もういいだろう」
根岸「七星さん。星光さんは俺の車で待ってる」
七星「えっ!」
根岸「ここのPCや画像の点検は皆とやっとくんで、早く行ってやって」
七星「それは……できない」
根岸「何故なんだ。
『ここには自分の居場所がない』なんて言って半べそ状態で、
夜中にひとりでどこかへ行こうとしてたのを、
俺が玄関で引き留めたんだ。
彼女に俺の車のキーを渡して待たせてある。
ペンションから駐車場もここの庭も丸見えでどうしても心配なら、
スタッフジャケットとこのサングラスをかけて車で話せばいい」
浮城「ん?どういうことだ」
根岸「まだ門は閉めてないし、俺の車を使って出かけてもいい」
七星「根岸、お前……」
根岸「七星さん。
本気で彼女を愛してて守りたいなら、
どんな理由があるにせよ、これ以上彼女をほったらかしちゃ駄目だ。
取り返しがつかなくなる前に、
面と向かって本音ぶつけないと一生後悔する」
七星「根岸。どうしてそこまでして僕たちのことを……」
根岸「俺があんたと星光さんにしたことの罪滅ぼしってことで」
七星「……」
根岸「それから……ほんの少しの擦れ違いで、
世界中探してもたったひとつしかない無茶大切な宝物を失ってしまう。
一度全てを無くした、馬鹿な男からのアドバイスでもあるな。これは」
七星「根岸……」
根岸「帰ってきたら俺が知ってることはすべて話すから。
早く行ってやらないと、本当に彼女何処かへ行ってしまうぞ」
七星「ありがとう。恩に着る!」
北斗さんは根岸さんの肩を軽くとんと叩き、サングラスをかけると、
ソファーにあったスタッフジャケットを素早く取り、
足早に玄関に向かい外へ出て行った。
根岸さんはその後ろ姿を優しく微笑みながら見守っている。
そんな意外な彼の一面を見せつけられて、
流星さんが根岸さんに近寄り話しかけた。
流星「根岸、ありがとう。
俺がふたりにできなかったことをお前が代わってやってくれたよ」
根岸「いや。俺は何もしてないんで。
さて!PCの点検やるかな」
流星「ったく格好つけやがって(笑)
よし。やろう!」
浮城「なんで真っ暗の中、
カズはサングラスなんかして出ていったんだ?」
田所「さぁー」
風馬「ほんと、鈍感なやつら!」
村田「ぷっ!うふふふふふっ(笑)」
いちごさんは皆のやり取りを聞きながら吹き出した。
やっとAチームがひとつになれた瞬間だと、
微笑みながらほっと胸を撫で下ろす。
ここに居た誰もが口には出さなかったけれど、
なんだかとってもあったかい、
何物にも代えられない大切な宝物に触れたような心持でいたのだった。
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