怒涛のようにやってきた様々な出来事に動揺している北斗さん、
呆気にとられている風馬、そして困惑する流星さん。
それぞれの複雑な思いがスーパーストームのように勝浦を襲い、
邂逅に戸惑う私も否応なくその渦中にどんどん巻き込まれていく。
じっと私を見つめる北斗さんの視線が痛くてたまらず俯いた。
しかし、そんな私達とは対照的なのは神道社長で、
流星さんの持っている雑誌を取りざっと目を通すと、
とても冷静沈着に私達に話しだす。


神道「なんだ、お前たちも知ってしまったか。
  これこそついさっきのこと、
  うちに押しかけてきたハイエナどもを片付けてきたんだけどな」
流星「えっ。もう会社に押しかけて来てるんですか」
神道「ああ。
  流星、七星。俺はこれから商談があってあまり時間がないんだ。
  申し訳ないが中にはいってくれるか」
七星・流星「はい」
神道「塩田くんと星光さんも、私達と一緒にリビングにきてくれるかな?」
風馬「は、はい」
星光「はい……」


流星さんは私の耳元で「大丈夫だから心配するなよ」と一言囁いて、
私の前を歩く北斗さんに近寄った。
そして神妙な表情を浮かべながら歩く彼の肩をポンポンと叩くと、
追い抜きざまに声をかけた。


流星「兄貴、すまないな。
  兄貴よりも先に俺が星光さんをヘッドハンティングした」
七星「えっ!?それは、どういうことだ……」
流星「だから!
  星光ちゃんのカメラの実地試験をして、
  履歴書をうちの本社に送らせたんだ。
  それで、社長と東さんが彼女を面接して合格したってこと」
七星「ふたりが面接って。おい、流星!」
流星「おい!」
風馬「は?」
流星「俺と一緒に行くぞ、狂犬!」
風馬「いてっ!そのあだ名、やめてくださいよ!」
流星「うるさい、狂犬!
  新人が先輩にたてつくな!」


流星さんは私たちのために気を利かせたのか、
風馬の首に腕を回して、彼を連れて私たちより先に別荘に入る。
躊躇い不安げにトボトボと歩く私を、
北斗さんは優しい眼差しで見つめて手招きした。




(勝浦海岸沿いの別荘、一階リビング)


東さんは神道社長に、カレンさんと水野さんの事故の件と病状を報告する。
それを聞いて彼は、別荘にいる全社員に事情を話し、
BチームとCチームの全員に明日一日休みを与えたのだ。
ペンションに戻る者や自宅に帰る者と各々が支度をし始める。
一時してリビングに残ったのは、東さん、北斗さん、流星さん、
浮城さんに田所くん、風馬と私となった。
それと神道社長の車で私と一緒にきた、
スターメソッドの社員の村田苺(いちご)さん。
神道社長は持ってきた雑誌を東さんにも渡し、いちごさんを呼ぶと、
田所くん、風馬、私を連れて、
外のテントで備品の点検をするように指示した。
東さんは神妙な顔で記事に目を通す。



〈カメラ雑誌“ピンポイント”の記事〉



  『多くの女性をメロメロにしてきた有名写真家、北斗七星。
  美しい肉体美で知られる女性写真家、摩護月カレンと結婚秒読み!
  関係者が5年前のクレーン横転事故の真実と胸中を本誌に語る。
  
  スターメソッド所属の写真家、北斗七星(39)と、
  同社所属の女性写真家、摩護月カレン(34)が、
  熱愛中であることが17日分かった。
  ふたりは多忙なスケジュールを熟す中、
  パーティーや撮影でのデートを重ねている。
  キーワードとなったのは宮崎、沖縄の撮影、
  6年前の2008年の撮影を境に仲良くなり、精力的に活動をしている。
  所属会社の完成披露パーティーでは、
  ふたりの親密さをまざまざと見せつけた。
  パーティー関係者からは高級料理店から彼のオーダーで、
  彼女の為に高級フランス料理までチョイスしたんだとか。
 

  北斗七星は、5年間報道カメラマンとして活動し、
  2006年5月、スターメソッドに入社。
  同年10月に出版した“君を求めて”で最優秀ピクチャー賞を受賞している。
  100万部の売り上げを上げるミリオンセラーと同時に、
  翌年の2007年に弟で同社の写真家である北斗流星(38)と、
  写真集“THE CONTINENT(大陸)”を出版。
  55万部を売り上げて、ファン層を増やす。
  2008年、同社所属モデル、奥園若葉さんとの交際が取り沙汰された。
  しかしその後、完成披露パーティーでの北斗流星氏の妻との情事が発覚。
  

  若菜さんとの交際が破局し、弟流星氏との確執が浮き彫りとなる。
  それを期に流星が渡米。4年半涼子さんと同棲していた。
  そして、2009年に行われた映画“スタント”(台東区黄金通信社)の撮影中、
  クレーン横転事故が発生、それをきっかけに仕事が低迷し始めた。
  現在は弟の流星氏との確執を乗り越え、
  再起をかけて千葉県勝浦での撮影をこなしている。
  あの有名なおせんころがしのほど近くに撮影クルーは陣取っている。
  業界でも“冷酷な鷹”と恐れられている、
  スターメソッドの代表の神道生(39)は、
  依頼会社との撮影契約金を三倍に引き上げ、
  半年間という短期間での撮影を強行。
  同社専属で最優秀ピクチャー賞、世界報道カメラ大賞を受賞した写真家、
  東光世(39)も撮影の指揮をとる。
  関係者によると、この撮影では関わった4社で怪我人や撮影事故が続出。
  前代未聞の撮影とうわさも流れているだけに、
  今作品の完成度が期待される』



神道「まぁ、ある事ない事つらつらと。
  例の黄金映画撮影時のクレーン事故の件も書いてある」
東 「七星、流星、大丈夫か?」
流星「俺は大丈夫ですが、兄貴は」
七星「僕も大丈夫です。
  それより神道社長。
  濱生星光さんの採用の件、どういうことですか」
神道「ん。どういうこととは?」
七星「彼女は、今回の採用を見送るとお伝えしたはずです」
流星「だから、それは俺が」
七星「お前は黙ってろ。
  彼女には撮影経験が」
神道「七星。
  最初はお前が彼女を連れてくることになっていたはずだ。
  俺は、お前に会議の時に面談するといってあったはずだが?」
七星「そ、それは……」
新道「お前が持ち込んだ話を、流星が変わってしただけだ」
七星「しかし」
東 「七星。お前、何かひとりで抱えてないか?
  何かあるなら、今ここで話せ。今回の事故とこの報道もあるんだ。
  ここ最近のお前の様子を見てると、これからの撮影にも支障がでかねない」
七星「では……お願いがあります。
  彼女がこの撮影現場で働くなら、
  安全のためにこの別荘で寝泊りをさせてください。
  そうすれば何かあっても目が行き届きますから」
東 「それはできないな。
  この別荘には男ばかりで他のスタッフの手前、
  女性ひとりだけ宿泊させるわけにはいかない」
七星「それでは……やはり、彼女をこの現場から外してください」
神道「七星。
  なぜ彼女の身を案じているのか、俺たちにわかるように説明しろ」
七星「そ、それは」
浮城「それは、カレンのことがあるからです」
東 「カレン?彼女がどうしたんだ」
浮城「実は……」


浮城さんはカレンさんが北斗さんに告白したことや、
彼女とのこれまでのこと、
このゴシップ記事に触れ、5年前のパーティーでの一件を話す。
そして流星さんからも、涼子さんから聞いた黄金の撮影期間にあった、
自宅不審車事件を報告したのだ。
北斗さんはじっとうつむいて座ったままだったけれど、
神道社長と東さんから執拗に追及され、
私が根岸さんとカレンさんのターゲットになるかもしれないと、
漠然とした不安を漏らしたのだ。
まるで5年前の沈んだ膿出しをするように、それぞれに意見を出し合う。


神道「流星の不審車の件はわかった。
  調査して誰の所有か調べよう」
流星「はい。お願いします」
神道「七星。
  陽立の話を聞いてなんとなくお前の気持ちはわかったが、
  星光さんの件は光世の言う通り、
  彼女だけをここにおくわけにはいかない」
七星「はい……」
神道「しかし、カレンとは一緒にさせないようにする。
  だから彼女の傍に村田をつけて、
  ここで住み込みで手伝いをさせようと思う」
七星「えっ」
神道「実はそのために今日彼女を連れてきたんだ。
  流石にいくら旅館での調理経験があって料理ができると言っても、
  初めて来た人間にいきなり30人近い食事をひとりでさせられない。
  だから、村田と同室でならここで宿泊させてもいい。
  光世。
  今夜、星光さんと村田を加えた新しい割り当てをつくってくれるか」
東 「ああ、わかった」


神道社長は、東さんに今後の方針を伝えた後、次の商談に出かけた。
リビングのソファーで考え込むように項垂れる北斗さん。
社長の計らいに少しだけ安堵した表情を見せた。
東さん、流星さん、浮城さんは心配そうな表情を浮かべながらも、
彼を見守り支えるように話していたのだった。

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