(東京都千代田区、夏鈴の新居マンション)


結婚式の前夜、夏鈴さんの提案で女子会をしようということになり、
夏鈴さんの自宅で食事会をすることになった。
結婚式の最終打ち合わせもあったけれど、
何より夏鈴さんがお目出度だと知って、
皆とも相談してお祝いしようということになったのだ。
メンバーはブライドメイドを頼まれた私に苺さん、
結婚式に招待されて東京に帰ってきた、
カレンさんに流星さんの奥さんの涼子さん。
根岸さんも浮城さんや流星さん達男同士で飲み会をやっているらしい。
根岸さんと夏鈴さんの甘い愛が溢れる新居で、
異色の女5人、オードブルを囲みながら話に花を咲かせていた。


カレン「まさか、このメンバーでお酒を酌み交わしながら、
   女子会をすることがあるなんてね。
   貴女たち二人に豊島区の神社の写真展で会った時は、
   こんな日がくるなんて微塵も思ってなかったけど」
夏鈴 「私だってそうですよ。
   『なんて生意気な女性なの!』って思ったことはあっても、
   一年前はこんな光景をまったく想像してなかったし(笑)」
カレン「それは私だって同じよ(笑)」
涼子 「私も、カレンさんから連絡を貰うまでは、
   流星の仕事の関係者と顔を合わすこともなかったもの」
星光 「そうなんですか?」
涼子 「ええ。
   実は、彼の仕事仲間の結婚式に夫婦で呼ばれたのは初めてなの。
   パーティーだってそう。
   6、7年前くらいに、
   スターメソッドのXmasパーティーに誘われて以来かな」
星光 「そうですか。
   (七星さんが言っていたあのXmasパーティーのことだ)」
村田 「これから会社では、
   定期的に家族交えて交流会もあるみたいですから、
   こういう機会を持つのは貴重なことですよ」
夏鈴 「そうね。それもこれも、恋人や夫たちのお蔭です。
   こうやって頼もしい凄腕の主婦友もできたことだしね」
カレン「それ、私のこと言ってる?」
夏鈴 「はい。言ってます」
村田 「私にとっては、 夏鈴さんと根岸さんのお蔭でもあります。
   駿と付き合うようになったキッカケだもの」
夏鈴 「えっ!私?」
村田 「はい。私と駿は、
   勝浦で夏鈴さんと根岸さんの姿を見て感化されちゃったんです。
   夏鈴さんが撮影現場に来て、
   根岸さんと再会したあの感動的なシーンが、
   純愛ドラマ見てるみたいで素敵だったなー」
夏鈴 「そうかなぁ。
   純愛ドラマは私達じゃなくて、
   キラちゃんの影響力大だと思うけど?」
星光 「私!?」
カレン「そう言われればそうね」
涼子 「流星から聞いたんだけど、
   カズお義兄さんを助けてくれたんですってね」
村田 「私も神道社長から聞きました。
   献身的に看病してたって」
カレン「そう。私は傍で星光さんをずっと見てたからね。
   涙が出るくらい健気で献身的だったのよ。
   駆け寄って抱きしめてあげたくなるくらいにね」
涼子 「そうだったの……」
星光 「カレンさん」
村田 「それに、
   キラさんは勝浦でもスタッフみんなを支えてくれたんですよ」
夏鈴 「そうよね。ひろからキラちゃんの武勇伝は聞いてるわ」
星光 「武勇伝なんて、そんな大げさです」
カレン「あの頑固で硬派のカズが惚れこむくらいだから」
星光 「あ、あの、皆さん。買い被りすぎですよ。
   もうこの話はやめましょう。ねっ」
夏鈴 「でもさ、
   キラちゃんもやっと七星さんとの恋が実ったんだから、
   すぐ私達主婦友の仲間入りだからね」
村田 「そうですね!私もキラさんのように駿を支えて頑張ろう」
星光 「……」
涼子 「星光さん。なんだか元気ないわね」
夏鈴 「キラちゃん、どうした?」
カレン「何か心配事でもあるの?
   悩みがあるなら一人で抱えてないで、
   この際ぶちまけちゃいなさい」
夏鈴 「そうそう。そのための女子会でもあるんだから」
村田 「そうです。
   もしかして、何か七星さんとあったんですか?」
星光 「うん……あの、それがね」


その場にいた全員が私の話を聞いた途端、驚いた表情を浮かべる。
そして透かさず、カレンさんが呆れ顔で話しだした。


カレン「貴女、カズがフランスへ行ってること知らないの?」
星光 「えっ。
   (七星さん、またフランスに行ったの!?どうして!?)」
夏鈴 「そっか、それで。
   七星さんは結婚式に来れないってひろが言ったのは、
   そういうことだったんだ……」
星光 「(根岸さんの結婚式も欠席。七星さん、何を考えてるの!?)」
夏鈴 「日本に帰ってきたのに、
   欠席なんておかしいなって思ってたんだけど、
   あんな大変なことがあったのにどうしてまたフランス!?」
村田 「それは、KTSの栗金社長との契約があるからだと思います。
   七星さんは、長期契約を約束されていて、もう前金も貰ってるし」
カレン「カズは、仕事に関して妥協しない人だからね。
   それだけじゃないわよ。
   今回のフランスで受けた二つ目の仕事にも穴を開けてしまった。
   しかも、海外での治療に入院、日本への移送で、
   会社にもかなり負担掛けてることだって、
   カズの性格なら気にしてるはずだから、
   のんびり自宅で療養なんてして、平気で居られる男じゃない」
夏鈴 「でも、事故は不可抗力じゃない。
   そういうことがあった時は、労災になるんじゃないの?
   スターメソッドは、
   社員がいざっていう時の為に保険かけてたりしてないの?」
村田 「保険はかけていますよ。
   神道社長はそういう費用を社員に請求することもしない人だし、
   七星さんに無理させてまで、無理やり仕事させることもしない。
   現に事故の後、七星さんの代わりに、
   現地社員とカメラマンを派遣してるんです」
カレン「きっとカズが言い張ったのよ。
   仕事を他人に任せて平気な男じゃないもの」
夏鈴 「だからって。
   そんなことで、もしものことがあったらどうするのよ」
カレン「夏鈴さん。
   そんなことって簡単に言うけどね、海外は日本とは違うのよ。
   航空移送にどれだけかかると思ってるの?
   日本の救急車は無料だけど、フランスの救急車は有料で、
   km単位で料金が決まってるし、入院治療費だって高額なの。
   ざっと見積もっても、
   今回かかった費用は1000万は軽くいくんじゃない?」
涼子 「はぁー」
星光 「1000万……」   
夏鈴 「だ、だからって、
   瀕死の重傷で何日も昏睡状態だったんでしょ?
   もしこれがひろだったらって考えたら、
   私は居ても立ってもいられない」
村田 「それだけ責任感の強い人ってことです、七星さんは」
カレン「そうね」
夏鈴 「キラちゃん。
   七星さんからどのくらい連絡がないの?」
星光 「二週間?いや、もっと……かな(笑)」
カレン「呆れた。カズったらなんで連絡しないのかしら」
夏鈴 「私だったら完璧キレちゃうわ」
星光 「七星さん、退院してすぐに仕事復帰するって言ったの。
   会社にも取引先にも迷惑かけたから、
   落ち着くまでは連絡できないって。
   約束は蔑ろにはしないから分かってほしいって言われたんだけど、
   でもまさか、フランスとは……」
夏鈴 「はーっ。身体が回復して動けるように途端、
   大事故なんて忘却の彼方に追いやって仕事できちゃうものかな」
カレン「Oubli(※1)……
   本当に、忘れてほしくはないわね…」
涼子 「まったく(笑微)カズお義兄さんったら…。
   そういうとこ兄弟そっくり。
   あの性格のせいで、私も随分辛い思いをしたわ。
   星光さん。
   カズお義兄さんとこれからもずっと一緒に居るなら、
   避けては通れない道よ。
   覚悟しなさいね」
星光 「涼子さん」


初めて真面に会って話した相手なのに、
涼子さんは私を北斗さんの大切な人として接してくれている。
その心音は、流星さんを心から愛してると語ってもいた。
私は頼もしい味方が傍に居ることに感謝しつつも、
病み上がりの北斗さんのことが気ががりで仕方がなかった。
そして、私に黙ったままフランスへ行ったことも、
何故という疑問と共に見えない一つの蟠りを作っていく。



(都内、某教会)


そして、根岸さんと夏鈴さんの結婚式当日。
空は抜けるような青さに澄み切り、
その中に白い教会と十字架がくっきりと聳え立ち浮かび上がる。
私は目を細めて手をかざし、頭上に視線を移した。
うっすらと浮かぶ飛行機雲と交わり飛んでいくジャンボジェット機。
目の前に広がる空はこんなにも青いのに、
愛念と憂悶の狭間で揺れ動く私のハートには、
儚い影が落ちてモヤモヤした気分が晴れない。
私は、もうひとりのブライズメイド苺さんと一緒に、
ブルーのラップドレスに身を包み、小さなブーケを持つと、
真っ白なウエディング姿の夏鈴さんの横に立ったのだ。
式場全体に広がり流れるオルガンの音。
懐かしささえ感じる、ヨハン・パッヘルベルの“カノン”とともに、
観音開きの重厚なドアがゆっくりと開かれた。
厳粛でふんわりとした幸せな空気に包まれた式が今始まる。

(続く)



この物語はフィクションです。


※1、Oubli 【ウブリ】…フランス語で忘却。