同じ最寄り駅の北口と南口にそれぞれアパートを借りている私たち。

駅まで来て、「送っていくよ」と国島さんが南口を出る。


「つか、コンビニ寄っていい? 明日の朝食買いたい」


泊まる気か。
相変わらずゴーインマイペースだな。
でも、ここ数日コミケ用の原作書いていたりして、まともに掃除もしてないしなぁ。


「今日は騙されたのが悔しいから泊めませんよ」


これは建前だけどさ。せっかくこれからもよろしくって話をしたのに、早速幻滅されたら困るし。


「あっそ、じゃあ」


そう言った瞬間、おしりの下に腕を入れられ、荷物のように持ち上げられる。


「なっ、なんですか!」


私が暴れているせいで、せっかくの花束から花びらが何枚か落ちる。
国島さんはそれも気にせず、来た道を逆に戻り始めた。


「泊まるのがダメなら、帰さないしか選択肢ないだろ。俺んちに行こうぜ」

「はぁ? ちょっ」

「うまくはいかなくても、ちゃんと考えたからな。ご褒美やらなきゃ俺も気が済まないんだよ」


あ、プロポーズ作戦のことか。
ていうか、これからすることをご褒美にしちゃう辺りが国島さんって野獣って思うけど。

……まあいいか。
私の頑張り、国島さんだけはちゃんとわかってくれてると思ったら、なんだかすごく幸せな気がするから。


「もうっ、おろしてください。自分で歩けます」

「逃げるだろ」

「逃げないから! もうっ花束がつぶれちゃいますよ」


ようやくおろしてくれるも、国島さんは離れがたそうに私の目元にキスをする。


ってかホントに!
なんでこんなのを人前でできるのこの人。

ふてくされる私の頭を抱き寄せて、「騙して悪かった」と呟く彼。

確かにかなり苛ついたけどね。
どうやら私も、彼を相当やきもきさせているようなので、おあいこかなとは思うんだ。

私は花束の匂いを思いきり吸い込んで、彼に微笑みかけた。


「今日はお花もらったから許してあげます」

「そんなもんでいいならいくらでもやるよ」


そして、ふたりで彼のアパートへと向かう。

願わくば、こんなふうに彼とずっと一緒にいられますように。







【Fin.】