「あー、川野いい。最高」
「み、三笠くん?」
「そろそろ種明かし? ねぇ、離して、苦しいわ」
目の前の彼女はふっと表情を緩めると、私の手を外し、喉元を抑える。
そして三笠くんの方を向くと、無害そうな笑顔をみせた。
「三笠くん、私、お役御免でいい?」
「ありがと伊理紗(いりさ)ちゃん。今度お礼する」
「どういたしましてー」
にこやかに会話するふたり。
国島さんは心配そうに私を見ている。
ちょっと待って、訳が分からないんだけども。
三笠くんとこの彼女はグル?
国島さんも驚かないってことは知ってたの?
私だけが何もかも分かっていない。
そのとき、会場から観客が出てきた。戸口近くにいた私は背中が開いた扉にぶつかり、前のめりになってバランスを崩す。
「八重、危ない」
「川野、こっち」
国島さんと三笠くん、同時にふたりから手を伸ばされ、反射的に国島さんの手を取った。
彼は驚くような力で私を引っ張り、ほとんど抱きかかえるようにして、「とりあえず移動しよう」と言う。
声が耳元近くで聞こえるよ、密着し過ぎだって。
「こっち行こう」
三笠くんに招き入れられ、私たちは関係者以外立ち入り禁止の区域に入った。
「一体どういうことなの。ねぇ、三笠くん」
三笠くんは、答えない。穏やかな微笑を浮かべたままだ。



