【し・ん・じ・て・い・て、ま・り、い・ぶ・に・あ・お・う。そ・し・て】
「【信じていて、マリ。イブに会おう、そして……】これが俺のメッセージ」
「イブ……」
「今日帰ってくることをこっそり教えたつもりだったんだけどね」
おどけて見せたテツヤの頬を、マリが思いきり叩く。
「バカっ、すごくつらかったのに」
「うん。ごめん。怒っていいよ。マリには資格がある。傷ついた分だけ俺を傷つけていい」
テツヤはポケットからニードルを取り出した。そしてなぜかブラックボートに傷をつけはじめた。
画家が正面を向いているので、客席からは絵は見えない。
マリは彼の腕をつかんで止める。
「やめて、テツヤ」
「いいんだ。マリが傷ついた分だけつけるよ。何が辛かった? 言ってみて」
「でも絵が」
「これはそのために描いた絵だからいいんだ」
「ずっと、……何も言ってくれないの辛かった」
「うん」
「テツヤが嘘ついたのかなって、疑う自分も嫌で」
「うん」
画家は手早くキャンパスに傷をつけていく。
マリの不安が、傷が、キャンパスにのる。
そして、マリの言葉が途切れたところで、テツヤは恭しくキャンパスを客席に向けた。
「……っ」
そこにいた観客が一斉に息を飲む。
その反応に、画家が悠然と笑った。
そこにあったのは、黒地のキャンパスに浮かぶ、スカイブルーの控えめな花の絵だったからだ。
マリが呆然とつぶやく。
「……スクラッチ」
「そう。ひっかき技法。久しぶりに色を描いたよ。不審の混じらない絵。これはブルースターって花。ブーケによく使うらしいよ。マリにあげる」
はい、と手渡されたキャンバス。
闇の中に浮かぶ花は息を飲むほどに美しい。
「メリークリスマス」
屈託のない笑顔。差し出される手。



