マリは何度もふたりを見回した。
自分の知らないところで起こった出来事に戸惑う。
「一理あるって思っちゃったんだよね。付き合って十年。何の約束もあげなかった俺は、強気に出れるほど君を大切にはしてこなかった。だから俺と先生は賭けをした。マリが、俺のことを信じていられたら、俺は今までずっと抱えていたマリへの不信を捨てて、この先ずっとマリを信じる。マリがこの絵を捨てたり傷つけたりしたら、俺は身を引くって」
テツヤはぺろりと舌を見せ、マリに笑いかけた。
「仕事をすっぽかしたとか、別の女とかは仕込みだから。本当じゃないよ」
「ひ、ひどい、傷ついたのに」
「うん。ごめん」
「私、不安だったのに」
テツヤは、キャンバスの木枠を指でなぞり、ぽそりと呟く。
「俺も不安だったよ。だからちょっと仕込んだんだ。このメッセージは俺の未練」
「え?」
「もし気づいたら、必ず待っていてくれるだろうっていう保険。でも気づかなかったみたいだけど」
「それ、どういう意味なの?」
「【青い手毬、自分に打て。そして死……】これはアナグラムなんだ。全部ひらがなにして並べ替えてごらん」
【あおいてまり、じぶんにうて。そしてし……】
テツヤが、床に文字を描く仕草をする。それと同時に、スクリーンにひらがなが映し出された。
テツヤは一音一音ゆっくりと発音し、ひらがなを並べ替えた。



