プロポーズはサプライズで


あの時の彼の絵は廃棄され、その後、彼はモノクロの絵しか描かなくなった。

奇しくもそれが彼の成功のきっかけとなる。
とある芸能人が彼の絵に魅了され、マイナー向けの番組ではあったがテレビで紹介されたことで人の目に触れることとなった。
彼の画家人生がそこから始まったのだ。


そして暗転。回想シーンの終了だ。


再び舞台は現在に戻る。


「貝原の活躍は知ってる。モノクロの画家。人を引き付ける不思議な魅力。……知っているかい? 彼の描く絵は象徴学的に解析すると心の闇を描いているんだそうだよ。サクランボは恋愛、それを咥えたダチョウは長い旅を表す。“恋愛の遠い旅路”だ。ハサミは嫉妬。嫉妬が切り裂く世界は陰鬱な森の中」


マリは彼の過去の絵を思い出す。彼の絵は見る人によってさまざまな解釈がある。その解釈も聞いたことはあった。


「心の闇を描いて、奴は成功した。だから奴はずっと闇に沈んでいなきゃいけないんだ。幸せになどなる資格がない」


教師は、ゆっくりとマリに近づいてくる。

高校の時のマリは、あの後、絵についての疑惑を教師に問いただすことはできなかった。
その年度末に教師は移動になり、そのまま存在すら忘れてしまっていた。


「君は今何をしてる?」


突然の質問に、マリは目をぱちくりとさせた。