お互いキャンパスに向かい、コンクールに出す絵を描いている。今は色塗りをしているのか、彼らが持っているのはともに絵筆だ。
会話から、同じ絵画展に出すこと、テツヤはいつも入賞はするものの決定打に欠け、マリは落選ばかりしていることが分かる。
そこへ、ワイシャツ姿の男がやってくる。若かりし岸辺だ。
「貝原、お呼び出しだぞ?」
「俺?」
「教師を顎で使うなって言ってやってくれ」
笑いながら先生とテツヤはともに出て行った。
ひとり残されたマリはため息をついてテツヤの絵を眺める。
「よくできてるじゃないか」
いきなり背中に声を駆けられて、驚いて振り向くとそこにはいつの間に戻ってきたのか岸辺先生がいた。
「テツヤの絵はすごいですよね。この赤……私じゃ出せない。構図もそうだけど、人が思いつかないようなものがテツヤには描ける。……私は」
マリは自分の絵を眺めた。ただキレイなだけの絵だ。
秀才は天才にはかなわない。努力をした分だけ、才能の違いを思い知らされてきた。
マリはいつも、テツヤに対して嫉妬と愛情がないまぜになった気持ちを抱えていた。
「まあそうだな。……悔しいことに」
岸辺はマリのキャンバスに手を伸ばした。
先生も否定をしないということが、マリには悔しかった。



