プロポーズはサプライズで



次に明かりがついたとき、彼女はブラックボートを抱えたまま外にいた。

首にマフラーを巻き付け、彼のアトリエからの帰り道をとぼとぼと歩いている。
今日はクリスマスイブだ、と街頭ラジオの音が告げる。ホワイトクリスマスになりそうです、という幸せそうな声は今はマリを苦しめるだけだ。


「真っ黒な絵が“死”と対応してると考えればどうだろう。青い手毬が自分を打ったから死が訪れた。つまり、青い手毬に何かされたから、この絵を描いていなくなった。だったら青い手毬が何を指しているのか分かれば手掛かりになる」


マリはそう仮説を立てた。


何度か「青い手毬」と声に出し、あることに気づく。手毬……その言葉には自分の名前が含まれているのだ。


「青いマリ。……私? 青い……昔の……」


後ろのスクリーンに再び影映像が映し出される。

青い……青春。
あの頃のマリとテツヤ。そして……

その時、大きな靴音が響いた。


「やあ、久しぶりだな」


テツヤかもしれないと希望に満ちて振り向いた彼女は、あからさまに肩を落とす。
そこにいたのは、スーツを着た男性だ。


「……誰?」

「おいおい、忘れたのか。俺だよ。美術部顧問だった……」

「岸辺先生……?」


再び照明が落とされる。
ガタゴトと裏方の音が響いたと思ったら、次に明かりがついたとき、場面がすっかり変わっていた。
どうやら過去のシーンらしく、教室にいるのはふたり。学ラン姿のテツヤと、セーラー服姿のマリだ。