会場に戻ってみると、すでに座席の前列がそこそこ埋まってきていた。
十人くらいなんて嘘じゃん。ざっと見て三十人はいるよ。
花束の近くに座らなきゃいけなかったけど、大丈夫かな。
でもそこはさすが国島さん、目当ての席にはちゃんとコートを置き、確保してくれたようだ。隣は一つしか空いてなかったけど、お願いしたら一つずれてもらえた。
「ほら座ろう」
国島さんが私の腕を掴んで引き寄せた。これで予定通り端から国島さん、私、明日美の順で座れる。
よしよし、と一人納得していたら、耳元に彼の声が降ってきた。
「あんま、目の届かないところに行くなよな」
「へっ、なんでですか?」
「……聞き返すなバーカ」
プイとそっぽを向かれたけど、もしかして照れてる?
実は一人ぼっちになって心細かったとか?
敢えて顔を合わせてくれない国島さんが何だかかわいらしく見えて、私はなんだかときめいてしまった。
うん、国島さんってなんか、いろいろズルい。
怒ってても拗ねてても私をドキドキさせるんだもん。



