プロポーズはサプライズで


「楽しんでいってね。……あ、明日美!」


三笠くんの営業スマイルに別の色がのる。
一瞬目を惹かれたのは私だけじゃなくて三人娘たちもだろう。


「ごめん、またね」


彼女たちに軽く手を振って、三笠くんはこちらに駆け寄ってきた。どこかホッとした顔をしているところを見ると、抜け出す隙を狙っていたのかもしれない。
明日美の頭を軽く叩いて、「来てたんなら声かけろよ」と言う。少し乱暴なその仕草が逆にふたりの親密さを表しているようだ。


「俊介くん、頑張ってね」


明日美の笑顔を確認すると、ようやく三笠くんは私たちの方を向いて頭を下げた。


「忙しいところ、川野も国島さんもありがとうございます」

「頑張ってね。本番も見に来るから」


買った二回分のチケットは一週目の週末と千秋楽に使う予定だ。

すでに本番用のメイクになっている三笠くんは、いつもの元気な役とは違って、幸薄そうな感じで顔色も悪い。
薄幸の美青年ってのもいいですなぁ。
スマホで写真撮りたいけど、一人がやりだしたらみんなやっちゃうからダメだよね。


「なあ三笠くん、ここの設備ってさぁ」


国島さんは仕事柄会場に興味があるらしく、辺りを見ながら彼に質問を浴びせている。

私や明日美はあんまりその辺は興味がないので、今日の三笠くんの格好を見ながらいつものように妄想を始める。三笠くんは舞台の内容は封切まで明かしてくれないんだそうで、明日美も画家という役で出るということしか知らないらしかった。