コクリバ 【完】

「先輩、この前の試合お疲れ様でした。残念でしたね」
「……」
「でも準優勝もすごいですよね!」
「いや。インターハイ行けなかったからな…」
「でも、すごくカッコよかったです!」

先輩が寂しそうに笑うから、私の胸も締め付けられる。

「おまえが見てくれてたから、良しとするか…」

私なんかが少しでも慰めになったら、嬉しい。

「このあとは、やっぱり受験勉強で忙しくなるんですか?」
高木先輩はチラリと私を見た後、
「いや。俺は進学しないから」
下を向きながらそう呟いた。

「じゃ、就職活動ですか?」
「まぁ、そんなところだな」

逃げられた気がした。
先輩がこの話をしたくなさそうに感じる。

「奈々。おまえ、携帯持ってる?」

話を逸らされたのは意識的にか、無意識なのか、私が感じていた距離に、先輩は気付いてないらしい。

「持ってません。欲しいって言ってるんですけど、まだ買ってもらってなくて…先輩は?」
「俺も、まだ」
「そうですか。でも携帯あったら便利そうですよね?」
「だよな。やっぱ夏休みに入ったらバイトしようかな」
「バイトするんですか?先輩が?」
「は?おかしいか?」
「何やるんですか?マックとかじゃないですよね?」

高木先輩は左頬だけで笑った。

「俺が、いらっしゃいませ~とか言ってんの?……似合うかもな」

私たちは声を出して笑った。

そんな簡単なことで私の不安は消える。

「そんなとこで働いたら、先輩、モテまくりですね」
「そんなにモテるかよ」
「モテてるじゃないですか」
「うーん。直接は言われない。なんでだろうな」

こんな風に普通に会話できてるのが嬉しくてニヤついてしまう。

「怖いんじゃないですか?」
「……おまえ、俺のこと怖かったのか?」

「私は、変な噂を聞いたからで……そんなには……」

最初から好きになってたかも……なんて恥ずかしくて言えない。

「うわさ?」

先輩が急に立ち止まる。

「あっ」

余計なことを言ってしまった。

でも、既に遅くて……