コクリバ 【完】

そして市原先輩も嬉しそうで、

「成長してないのはおまえの方だろ」
「いや、サトルだね。エロじじい」

その言葉が何かのキーワードみたいに二人同時にフッと顔が緩んだ。
やっぱりこの二人は仲がいいって確信した。
じゃ、なんでこの前はよそよそしかったんだろう。

「セイヤ。奈々ちゃんに手出すなよ。バージンだから美しいんだからな」

……大天使・ガブリエル

処女の聖母マリアに、神の子を宿したと告げに来た天使
その時に重要なのは、聖母マリアがバージンだったということ
そのために、受胎告知をテーマに扱った絵画には、
純潔を表す百合の花がほとんど描かれている

そっか、市原先輩はやっぱり芸術家なんだ。

なんかいろんなことに納得してしまった。

だったらなんとしてもこの大天使の言いつけを守らなきゃいけない。
そんな気になる。

だけど高木先輩は違うみたいで、左頬が笑っている。

「ならサトルは我慢できんのかよ。処女をもらってください。って迫られても、断れるのかよ」

「……断るわけないだろ…」

またしても二人で大笑いしている。

苦笑いで引き気味の私の中から、ガブリエルは消滅した。

男ってよく分からない。

後に残ったのはやりきれない虚しさだけ。

でも楽しそうな二人を見てるのはイヤじゃなかった。