コクリバ 【完】

「奈々ちゃんも知りたいの?」

唇が少し尖り気味になっていたけど、慌てて笑顔を作って市原先輩に聞いた。
「はい。もちろんです。なんでですか?」

「もったいつけんなよ」
高木先輩は椅子から乗り出している。

少し考えた後、市原先輩は美しく微笑んだ。
それは以前に見ていた先輩の顔で、その笑顔のまま口を開く。

「奈々ちゃん。怒らないでね」
「…はい。え?やばい理由なんですか?」
「おまえも怒るなよ」

市原先輩が、高木先輩に釘を挿す。

「なんだよ。言えよ。変なこと言ったら殴るぞ」
「……じゃ、言えないよ」

市原先輩は笑いながら筆を取った。

「あー!もう、なんだよ、ムカつく。
おまえ変わんねぇな。昔っからその言い方。
もったいぶんなよ!言え!」
高木先輩が子供のように椅子をガタガタ鳴らしながら聞くから、

「言ったら、おまえも俺の言うこと聞けよ」

市原先輩の目が楽しそう。
高木先輩をからかって遊んでるようにしか見えない。

「奈々ちゃんさ、ごめんね、まだでしょ?」

市原先輩が私に聞くけど、遠まわしな言い方にいろんな‟まだ”を考えた。

「……何がですか?」
「まだ…処女だよね?」

一気に顔中が熱くなる。
思わず頬を両手で隠した。

「な…な…」

そんなパニック状態の私を他所に、高木先輩はゲラゲラ笑っている。

「なんで笑うんですか!」

パニックだったけど、やっぱり笑われたことにはショックだ。

だけど、高木先輩は、
「おまえを笑ったんじゃねぇよ。サトルがあんまりバカだから……」

そう言いながら、まだ笑っている。

「バカってなんだよ。大事なことだろ。
女になる寸前の少女にしかない、儚い美しさがあるんだよ」

そんなことを言ってる市原先輩も、顔は笑っている。

「そんなキレイごと言ってんなよ。おまえはそれしか頭にないんだろ。
変わんねぇな。ほんと、成長しないやつ」

そう言った高木先輩はなぜだか嬉しそうだった。