コクリバ 【完】

「はぁ?芸術?」
高木先輩の片眉が下がる。

「人の心を動かすのが芸術だ。
エロティシズムも人の心を動かす」

高木先輩の怖い睨みも、市原先輩には届いていないらしい、何事もなかったように絵筆を動かしている。

「じゃ、ヌードを描け。奈々じゃないモデルで!」
「出せばいいってもんじゃないだろ」
「チラリズムか」
「分かってんじゃん」
「エロじじい」

二人の男が同時にニヤリと笑い合う。


「奈々ちゃん。さっきみたいに横になって」

市原先輩は独自の芸術観で、指示をだしてるんだろうけど、

「あの靴下だけ脱いでんのが、そうだろ」
「おまえも分かるか?」
「むっつりスケベ」

今度は同時に笑い出した二人。

(オス)

頭にそんな言葉が浮かぶ、そして軽くショックだった。

二人のかっこいい先輩たちに憧れていたのに、目の前で笑う二人は普通のいやらしい男達。

いや、こっちが現実なのかもしれない。

私はそれまで幻想をいだいていたらしい。
笑い合う二人に完全に疎外されている。

ただ、裸足でいるのがすごく恥ずかしかった。


「なぁ。じゃぁなんで奈々なんだよ」
高木先輩が疑いの目で市原先輩を見ている。

「聞きたいのか?」
真顔になる市原先輩。

「あの、私も聞きたいと思ってました。なんで私なんですか?」

そんな私の疑問に被せるように、高木先輩も言う。
「他にエロイ奴いっぱいいんだろ」

ちょっとだけ、本当にちょっとだけ傷ついた。
高木先輩に言われなくても、自分がセクシー系じゃないことは分かっている。
でも高木先輩にだけは言われたくなかった。

じゃぁ、なんで私に付き合おうって言ったんですか?