コクリバ 【完】

ドアがカチャンと閉まった瞬間、

「ともー!なに今の!」

絢香のテンションが戻った。

「ともちゃん、菊池義人とずっといたの?」
「で?どうなった?」
「付き合うの?」
「もうキスしたの?」
「ちょっと絢香!」

私たちの質問攻めに、ともちゃんは耳まで赤くして俯いた。

「とりあえず、なんか飲ませて……」

ともちゃんが水を飲んでいる間、私と絢香は前のめりになって待っている。
「待て」と言われた犬みたいに。

「ごめん。アイス忘れた」
「いいよ。そんなの…」
「で?どうなったの?」
「うん…付き合おうって言われた」
「キャー」
「なんて返事したの?」
「うん、って……」
「いやー!」

私と絢香は同時に後ろに倒れ込んだ。

「で?もうチュウはしたの?チュウは?」

絢香が目をキラキラさせて聞いている。

「……う、ん……」

「いやー!」

また二人で後ろに倒れたけど、今度のはわざと。


「でも、二人ともキスくらいは経験あるでしょう?」

すっかり女の顔になったともちゃんが聞いてくる。

「ないよ。ない。ね、奈々」

絢香の真っ直ぐな視線に、一瞬ためらった。

「あるのー?奈々、あるの?」
「誰?高木先輩?」

今度は私が顔を赤くする番らしい。

「もしかしてさっき?」
「高木先輩来たの?」
「うん。来た」
私よりも先に絢香が答えた。

さっきこの場所に高木先輩がいたんだ。

その時のことを思いだすと胸が騒ぐ。
まだ高木先輩の跡は生々しく残っている。

「来たんだ、先輩。坂口修は?」

オサムッチの話になると、絢香は途端に黙った。

だから代わりに私が首を横に振る。

「そう。忙しかったんだよ、きっと…」
「うん。そうだね」
「絢香。告ったら?」
「うん……」
「もう、絢香~」

ともちゃんと私で絢香を挟んで抱きしめた。