コクリバ 【完】

「奈々。無理するなよ」
「何が？」

寝起き独特のゆっくりしたテンポで高木誠也が話し出す。

「寂しかったら、我慢しないで言ってくれ」
「分かった」
「それでもおまえが辛かったら、おまえが楽になるようにしてくれて構わない。俺は、おまえの選択を見守っていくから」
「うん」
「シングルマザーになりたかったら……」
「だから、それは違うんだって…」
「あぁ。でも本当に子供だけがいいんだったら、子供の父親には俺がなる。不自由させない。約束する」

違うって言ってるのに……

「じゃ、そうなったらお願いします」

投げやりな答え方だったのに、

「……なるのかよ」

不機嫌になってる。

「それを言い出したのはセイヤでしょ？」
「できれば、子供とおまえと、おかえりって言ってほしいな」
「浮気しなかったら言ってあげる」
「おまえ、そんなんでいいのか？」
「なにが？」
「一応、今のプロポーズだぞ」
「えっ？」

ガバっと胸板から離れ、起き上がった。

「おまえの返事、テキトーすぎだろ」
「あ、あ、ごめん。も一回言って」
「言うかよ。明日隊に戻って、プロポーズしたけどテキトーに返された、っつったら笑われるぞ」

高木誠也の左頬が上がっている。

「言うの？そんなことみんなに言うの？」
「言えねーだろ」

枕の上で口の端を上げて笑う高木誠也にドキンとした。
大きな手が私の髪に触れる。

「おまえ、やっぱりショートが似合うな。俺がそう言ったことあるの覚えてるか？」
「覚えてるよ。髪を切ったのは高校の頃だよ。先輩がまだ卒業する前……」
「知ってるよ」

知ってたんだ。

そう思うと、なぜか泣きそうになったから、また厚い胸板に顔を押し付けた。