コクリバ 【完】

近くのホテルに泊まった次の朝。
薄明りの中で目を覚ますと、目の前に高木誠也の切れ長の目があった。

少し微笑むと、大きな手が頭に伸びてきた。

抱き寄せられ裸の胸に頬をつける。

大きな手が肩に回ると、そっと包まれた。

「おはよう」

低い声が胸に当てた耳から振動と共に聞こえてくる。

「おはよう」

私の声はしわがれていた。


静かな室内で、高木誠也の心臓の音を聞いていた。

厚い胸板が、どれだけの日数をかけて作られたものか今ではなんとなく解る。

その胸板に手を這わすと、その手をそっと握られた。


大きな手。
逞しい胸。

愛しい人。

あの頃はただ夢中で好きだった。

だけど今は高木誠也をちゃんと理解して好きだと言える。

「セイヤ…」

一緒にいられて幸せ。

「奈々……」

低い声に名前を呼ばれて、私の中がキュウと疼いた。