「高木さん。いいじゃないっすか。妹さんの連絡先教えてくださいよ」

高木先輩と目が合う。

「妹って言ったの、高木さんですよ」
「うるせー」

二人にしか聞こえない声で会話した。


「なんすか。兄弟で怪しい雰囲気作って…」

堤さんの声に、高木先輩と正面を向く。

「堤。おまえだけには連絡先を教えないようにって言っただけだ」

左頬を上げて機嫌よくビールを飲む高木先輩に、吹きだした。

「えー。俺、まじめっすよ」

堤さんが口を尖らせているのが可愛いかった。


「奈々」

先輩が私の方に向き直り、

「なんですか?」
「お兄ちゃんって言ってみ?」
「はぁ?」
「いいから」
「イヤですよ」
「昔、中山さんが、緒方さんに言ってたんだよ。俺もお兄ちゃんって呼ばれたいって。あの人、マジやばいよな」
「高木さんも一緒じゃないですか」
「いいから。言ってみろって」
「イヤですって」

その会話を正面で聞いていた堤さんが驚いた顔をしている。

「高木さんが女と笑ってる」