コクリバ 【完】

演奏を聴いていた人たちがばらけだすと、反対側にいたはずの高木先輩が目の前まで来て、焦った顔で私をチラリと見て、山下さんに視線を戻した。

「山下さん。すみません。こいつが何かしたんですか?」

「いや。世間話をしていただけだよ。ね」

山下さんが私に優しく話しかけるけど、私は顔を上げられない。

高木先輩が私を見ているのが分かるから。

「じゃ、先に食堂に行ってるから…おい、堤。みなさんを食堂に案内しろ」

そう言いながら山下さんはみんなの方へと歩いて行った。


取り残された高木先輩と私を風が取り巻いている。

「この前は悪かったな」

耳を触りながら、高木先輩がそう言った。

驚いて見上げると、

「さっきおまえと同じ幼稚園の先生って人に聞いたよ。副園長ってやつとは、ただの出張だったって。怒鳴って悪かった」

「……」

喉が熱い……

「奈々……」

「……」

「食堂行くか?」

いつもの優しくて低い声。

私は高木誠也の何も分かってなかった。