コクリバ 【完】

人垣の最後尾から少し離れたところまで来ると山下さんは振り返った。
ここから演奏を聴くようだ。

「高木が入隊した頃、今よりもっとひどくて、誰とも話さず、ほとんど一人きりでいたんです。こいつはすぐに辞めるだろうと、俺たちは話してました」

軽快な音楽が鳴る中、山下さんの声は私を緊張させる。

「しばらくすると慣れてきたのか、誘えば付いて来るようになったんですが、その頃の高木はすぐにケンカしてました。上官に対しても素直に言うこと聞かず…いつ辞めさせられても構わない。そんな酷い態度でした」

「高木さんが?」

「そうです。酒を飲むようになってからは、いつも外に飲みに出ているようでした。女関係もひどいようでした。こんなこと言ってすみません。でも、あいつは女を信じてないようで…いや、どちらかと言うと憎んでるかのように冷たい仕打ちをとってました」

あの高木先輩が?
胸が痛い。
そうさせたのは6年前の私?

先輩はそんな人じゃなかった。
みんなの中心にいていつも笑ってるような、頼りになるバスケ部のキャプテンだったのに……

「それが今年になってからは人が変わったかのように、良く話すようになったし、笑うようになりました。夏ごろ、遊びでバスケをやったときなんて、上手すぎてみんな驚いていたくらいです。
俺も高校の頃バスケやってたんで、その頃からあいつが良く話しかけてくるようになって……」

「……」

「何があったかは知りませんが、俺は嬉しかったんです。この前の出航のときは、どんなに辛い作業でもあいつは楽しそうでした。そんな時、特別公開で女を呼んだから一緒に回ってほしいと言われて、本当に驚きました」

言われたことを受け止めきれなくて、立ってるだけで精一杯だった。

高木先輩……

「奈々さん。あいつは本当に嬉しそうでしたよ」


音楽隊の演奏が終わり、拍手が鳴り響いていた。