コクリバ 【完】

「戻りましょう」

しばらくそこで立ち尽くしていたら、いつの間にか洋祐先生が戻って来ていた。

だけど私の方は見ていない。

「…すみません」

「謝らないでください」

そう言って、先を歩く洋祐先生の後ろを、車が止めてある駐車場までついてきた。

「あの…私、電車で帰りましょうか?」

今更ながら、都合よく車に乗せてもらってきたことへの罪悪感が湧いてくる。

「……気にしないで乗ってください」
「でも……」
「イヤじゃなければ乗ってください」
「はい」

語気を強めた洋祐先生に遠慮しながら助手席のドアを開けた。

スーッと走りだした車の中は洋楽が流れていた。
少し大きめのボリュームで流れる音楽が、私を拒否しているよう。

「奈々先生……」
「はい」
「……」
「なんでしょう?」
「……いえ……お腹すきませんか?」

国道沿いにそこだけ明々と輝いているラーメン屋さんに、何人かの行列が出来ていた。
洋祐先生がその横の駐車場に車を止めて、エンジンを切る。

私も助手席から降りようとシートベルトを外した時、

「奈々…」

低い声で呼ばれ、身体が固まった。

車内が静かすぎて心臓の音が聞えそう。

「……その人とは、上手くいってるんですか?」

洋祐先生は窓の外を見ている。

「……はい」

謝るのはただの自己満足。
ただこの痛みをずっと感じなきゃいけない。

洋祐先生ごめんなさい。

「分かりました。…さぁ、ラーメン食べに行きましょう。あー、これは1時間ぐらい並ぶかもですね。待てますか?」

明るい洋祐先生の声に、視界が揺れる。

「ほら、奈々先生。行きますよ」

鼻をすすって、笑顔を作って洋祐先生を見た。

「はい。行きましょう」