コクリバ 【完】

動けなかった。

それでも洋祐先生は左手を出したまま待っている。


「洋祐先生……すみません。実は、あの…私…他に…」

好きな人がいて…という言葉は言えなかった。

痛いくらいの沈黙。

でも、何も言えない。
ここで洋祐先生の左手を取る訳にはいかない。

洋祐先生が左手をスッと下ろした。

「……分かりました」

くるりと背中を向け、桜並木の中をズンズン進んでいく洋祐先生。

痛む胸を押さえ、その背中が小さくなっていくのを見ていた。

追うことはできない。許されない。

そんな私を責めるかのように、桜の花びらが激しく舞っている。

真っ暗な闇をバッグに、街灯の灯りでそこだけ浮き上がって見える桜の木が、私の胸を見透かしているようで怖い。


洋祐先生に惹かれていたのは隠しようがない事実。

あの人が戻ってきたから、さっさとヨリを戻して抱かれたのも事実。


桜の木が私を責めている。

桜の花びらが私を嘲笑いながら、周りを舞っている。