コクリバ 【完】

結局、私は意気地がないんだと思う。

怖がりで、逃げてばかりで、全く情けない。

こんな奴が友達だったら「バカじゃない」と一喝してるところだ。

だけど、自分のことになると全然上手にできない。


洋祐先生とは店を出たところで別れて、そのまま南口に戻って、カフェ・ド・マティスの扉を前にしている。

「ふぅ」と一呼吸置いて、重厚な扉を開けると、いつものように珈琲の香りに包まれた。


「いらっしゃい。待ってたよ」

いつものマスターの気怠い声が聞えてくる。

「ブレンドで」

カウンターのいつもの席に座る。

これが私の日常。そう自分に言い聞かせた。


マスターが一瞬私を見つめたあと、口元に笑みを湛えながらお湯を注いでいる。

「なんでそんなにニヤけてるんですか?」

「え?俺、ニヤけてた?」

「今もニヤついてる」

「フッ。あいつも何も言わずにその席に座るんだよ」

「誰?」

「あいつだよ。奈々ちゃんが連れてきた男」