コクリバ 【完】

「なぁ」

そうだろ、って意味で私に言ってるんだろうけど……高木先輩のになった覚えはない。

「おまえ。俺のこと覚えてないの？」

低い声がすぐそばで響く。
覚えてない訳ない。
むしろ毎日思いださない日はなかったくらい。
だけどそんな風に見つめられると恥ずかしくて顔があげられない。

「セイヤ。急に来て、何言ってんだよ。彼女は俺のモデルだ。邪魔すんなら出てけよ」

「させるか！こんなカッコ、俺が許さねぇよ」

高木先輩が立ち上がり、私を守るかのように市原先輩との間に立ち塞がった。

なんだこれは。
まるで二人の男が、私を取り合っているかのようなこの状況。
ドッキリか、夢か……
夢だとしたら、どんだけ都合の良い夢なんだって。

呆れている市原先輩と、怒っている高木先輩。
二人の睨み合いが続いている。

無理。私がこの状況を収めるなんて絶対無理
誰か助けて。

なんて願っても、誰も来てくれるわけはなく、
「あの…私は大丈夫なんで…」
二人にそっと呼びかけた。

振り向いた高木先輩の切れ長の目が今度は私を睨んでいる。
怖いのか、何なのか、よく分からないけど、泣きそうなる。

「すみません」
「……おまえら、そういう仲なのかよ……」

一段と低くなったその声に、喉が締め付けられた。

「ち、ちがいます」
「……」

高木先輩の無言は、本当に心臓に悪い。


「あの…ちゃんと服着てますし…ただのモデルですから…」

よく分からない言い訳になってしまった。