コクリバ 【完】

高校生だった頃よりも背が高くなってるような気がする。

それともしばらく会わなかったから、そう感じるものだろうか……

カーゴパンツのポケットに手を入れたまま、私を見下ろしている先輩が、よく私を覚えていたなと思う。

「俺が、分かるか?」

低い声が静かに囁く。

分かるどころか、忘れる努力も空しく、胸の奥に存在し続けている人―――なのに、私はコクンと頷くことしかできない。

「話がしたい」
「……」

私と?

話?

全く予想しなかった言葉に動けなかった。

「この近くに話せる場所はあるか?」

なんの話?

昔の?

それとも今の?

もしかして、幼稚園の父兄だったとか?

「おい!」

先輩の言葉を理解することに必死で、何を求められているのか全く解らないまま、答えた。

「はい…じゃ、この先の喫茶店でもいいですか?」

私がやっとの思いで振り絞った声は届いたらしい。

先輩があからさまに視線を外して、キャップを深くかぶり直した。

話ってなんだろう……

先輩の意図を図ろうとするも、もう切れ長の目を見ることはできない。