コクリバ 【完】

あんなに会いたいと願い、会えないことに何度も胸を痛めた人がそこに立っていた。

ツバのあるワークキャップを目深にかぶり、その下から覗く惹かれてやまなかった切れ長の瞳が、私を捉えている。

幻かもしれない―――

どこか現実味のない異次元の世界に入り込んだよう。


ドンと、後ろから来た人に肩がぶつかり、現実に戻った。

「すみません」

小さく謝り、また人の流れに乗る。
先輩からは目を逸らして……


今更、なんて挨拶すればいいんだろう。

こんにちは?

お久しぶりです?

無理。どれもわざとらしい。

だとしたらこのまま、気付きませんでした、って態で通り過ぎよう。

階段を下りきって先輩の方は見ないで、人の流れに隠れ横断歩道の方へと向かう。

足がもつれそう。
歩くのってこんなに難しかったっけ?


でも、後ろを振り向きたい。

っていうか、なんでここにいるんだろう……