コクリバ 【完】

「ありがとう」
「おう。たまには帰ってきて母さんに顔見せろよ」
「お兄ちゃんもね」
「……奈々…」
「なに?」
「あいつに会わないのか?」
「だれ?」
「高木」

心臓がドキンと跳ねる。

「な、んで?」
「帰ってるらしいぞ」
「なんで、お兄ちゃんがそんなこと……」
「雅人が昨日言ってた」
「違う。なんであの人のこと知ってるの?」
「はぁ?」
「なんであの人と私のこと……」

兄が俯き気味に話し始める。

「……悪かったと思ってる。ずっとおまえに申し訳ないと思ってた。みんなの前でハッキリ断られたら誰だって辛いよな」
「……」
「あいつに惚れてたんだろ?」
「……」
「高木はあれから一度も部活に来てないらしい。俺に遠慮してるのかもしれねぇな。おまえら二人に悪いことした」

カクンと首をかしげて遠くを見る仕草が、父に似ていると思った。
兄はあの頃のような激しさがなくなったように思える。
見た目だけかもしれないけど……

「お兄ちゃんも頑張ってね。彼女さんに謝ってやり直したら?」
「おま……なんで知ってる?」
「じゃ、送ってくれてありがとう」

叫ぶ兄を一人車内に残して、バタンとドアを閉じて、私は駅に向かった。


もう過去は振り返らない―――