コクリバ 【完】

その次の日の放課後
バスケ部のノゾキに行くという絢香に
「たまには付き合ってあげる」
なんて言いながら、無理やりついてきた。

絢香は「いいの?」と心配してくれてるけど、吉岡とのことはもうだいぶん平気。
ただ高木先輩とのことはまだ言えてない。

絢香と、絢香の中学時代からの友達のともちゃんと一緒に体育館に来た。
今日は見学の女子が少ない気がする。

バスケ部の練習は既に始まっていて、今はパス練習みたい。
そんな中真っ先に見つけたのは黒いトレーニングウエア。
誰よりも真剣な目で、誰よりも素早い動作で、パスした後の指の先まで綺麗な高木先輩。

どうして今まで気づかなかったんだろう。
肩口で汗をぬぐう仕草までかっこよかった。

「奈々…」
絢香が肘で突いてきた。
「ん?」
見ると、視線であっちを見るようにと言っている。
その方向には吉岡。
真っ直ぐに吉岡と目があった。

どれくらいぶりに吉岡と目が合ったんだろう。
お互いなんとなく避けてた気がする。
すぐに目をそらされたけれど、気まずい。

二人の後ろに隠れるように下がった。
やっぱりまだここに来ちゃいけなかったのかも。

そんなことを思って下を向いた時、
「おい」
低い声が聞えてきた。

顔を上げると、小窓の中からこちらを覗く人がいる。
黒いトレーニングウエアと、バスケットボールを持った手。

「ちょっと待ってろ」
高木先輩がしゃがんで、中からこっちを見ている。
真っ直ぐに、私を見ている。
絢香とともちゃんも、驚いた顔で私を見ている。

「ち、違います。人違いです」
咄嗟に叫んでいた。

「セイヤ。何やってるんだ」
「おい、先生きたぞ」
後ろから高木先輩を呼ぶ声がする。

ちっ、と口を鳴らすと、
「終わるまで待っててくれ」
高木先輩はそう言って小窓から離れていった。